バックログに積むユーザーストーリーを考える参考にアプリのリリース文を見る
はじめに
RGSTのOSTトピックの一つに「ユーザーストーリーを取扱説明書に例えるのはどう思う?」*1があり、参加しました。
議論の中で「プロダクトオーナーは"プレスリリースから考える"といいという話が昔あったけど、最近はスマホアプリのリリース文が参考になる」というコメントがありました。
「プレスリリースから考える」はAmazon発だった気がしますが、下記記事でも言及されています。
アプリによって個性があるようなので、普段使っているアプリのリリース文を集めてみました。
アプリのリリース文
以下、順不同です。
Slack
3.59 2019年1月8日 新着情報 • あけましておめでとうございます!2019 年最初の新着情報は… 画像アップロード機能の改善から!jpeg 画像を圧縮してアップロードするようにしたことで、スピードと信頼性が向上しました。今までどおり圧縮しないでアップロードしたい場合は、「設定」 > 「詳細設定」から設定を切り替えることもできますのでご安心を。 バグ修正 • 修正 : iPad で外付けキーボードを使用する際に、キーボードショートカットの一部が機能しないという不具合がありましたが、これを修正しました。キーボードでも道でも、使えるはずの「ショートカット」が使えないとイラっとしますよね。大変失礼しました! • 修正 : アカウントが解除されたユーザーとの DM セッションへの切り替えにクイックスイッチャーを使えるようになりました。人がチームを離れても知識は残りますので、これで今後もその知識を活用できて便利ですね。
まずはOSTでも褒められていたSlack、かなりフランクな文体です。年始の挨拶も目を引きますが、バグ修正に対し、ユーザがどう困っていたかが記載されているのが面白いなと思いました。
SmartNews
6.0.5 2019年1月23日 - より快適にご利用いただけるよう細かな改善を行いました。 - 新チャンネルが登場しました。「超!アニメディア」「with online」「くるまのニュース」「清水エスパルス」「川崎フロンターレ」「Ray」「STVニュース北海道」
毎日ニュースを読むのに使っています。書く人が変わっているのか2018年の頭は「不具合の修正や改善を行いました。」とそっけなかったものが、2018年の中頃は「画面下部をリニューアルし、チャンネルを一覧できるボタンを右下に設置しました。」と具体的な修正に言及するようになりましたが、現在は「細かな改善」にまとめてしまっているようです。何を改善しているんでしょう???
LINE
9.0.0 2019年1月21日 ■トークルームでLINE絵文字をタップ、もしくは長押しして表示されるメニューの[ショップ]をタップすることでLINE絵文字の購入ページを表示できる機能を追加 ■トークルームで画像を長押しして表示されるメニューに[アルバム]を追加し、直接アルバムへ保存できるように改善 ■写真を選択する画面を改善 ・選択した写真を一目で確認できるように画面の下段に選択された写真の一覧を表示 ・選択する写真のフォルダーにアクセスしやすく改善 ■近日中にLINE QUICK GAME新作タイトルの追加と一部タイトルのアップデートを予定
ユーザーストーリーっぽく書かれているなと感じました。私のイメージはもっと親しみやすくフレンドリーなアプリですが、技術力が確かな会社だからか、しっかりエンジニアリングをわかっている方が書いているのかもしれません。
Eight
9.0.2 2018年12月18日 アプリをリニューアルしました。 主なアップデートは以下の通りです。 ● 名刺登録がもっとスマートに - 2ステップで名刺登録が可能になりました - 名刺撮影時にラベル付けやお礼メールの送信ができるようになりました ● 人脈情報や企業情報の活用が容易に - 名刺の情報に素早くアクセスできるようになりました - 接点がある企業の概要情報やつながりが確認できるようになりました ● 効率的な近況チェック - 近況フィードをカスタマイズできるようになりました ● データ化がパワーアップ - 名刺の裏面も入力対象になりました(プレミアム機能) これからも皆さまのビジネスをサポートできるよう機能改善に努めてまいります。 お気付きの点がありましたら、アプリ内「自分」タブの「ご意見・不具合のご報告」からご連絡ください。
最近使い始めました。改善内容をカテゴリ分けしているのが特徴でしょうか。
JapanTaxi
4.3.1 2019年1月16日 [機能改善] - 乗車体験を改善する為、乗車後に注文結果画面で乗務員に対する評価を訴求するダイヤログを表示するように修正しました。 - 付近のタクシーを検索中画面を表示中にネットワークが切れた時、注文条件を変更のダイヤログが表示されてしまうバグを修正しました。 - 注文結果画面から行き先画面に遷移した際に、行き先だけでなく現在地も地図上に表示されるように修正しました。 - 中国語表示の際、乗車カード画面で文字が切れてしまうバグを修正しました。 - Amazon Alexa画面から遷移するお気に入り画面のレイアウトを修正しました。 - 注文時のタクシー会社画面のレイアウトを修正しました。 - お気に入りの地図で場所を登録する画面の文言を修正しました。 [開発後記] 明けましておめでとうございます。 本年もよろしくお願い申し上げます。 年末年始、多くの方にご利用いただきありがとうございました。 私も地元の愛媛に帰省する際に利用しておりました。 東京都内だと公共交通機関が発達しているので、タクシーの他に電車やバスといった選択肢があるのですが、愛媛は車がないと移動が不便なことが多いです。 帰省した際に旧友とお酒を飲むことが多いのですが、車は運転できないので、タクシーを簡単に呼べるアプリはやはり重要だなと再確認しました。 多くのタクシー会社さんに協力をいただいて、地方のタクシー乗車体験も良くしたいと考えていますので、「メニュー」>「アプリについて」>「お問い合わせ」よりご要望をいただけると幸いです。 今後とも応援をよろしくお願いします! JapanTaxi開発チーム
細かな修正が記載してあるのに加え、開発後記があるのが目を引きます。開発者がどんなことを考えているのかはなかなか聞く機会がないですからね。
205.0 2019年1月25日 このアプリは、快適にご利用いただけるよう、定期的にアップデートされます。すべての機能をご利用いただくには、最新バージョンをダウンロードしてください 各種不具合の修正とパフォーマンスの向上。 Facebookをご利用いただきありがとうございます。
壊れたロボットのように基本これしかありません。
Amazon
13.1.0 2019年1月9日 今回のリリースではバグ修正及び動作パフォーマンスを改善しました。
お前もか… 基本これしか無いようです。
Pokémon GO
1.99.2 2018年12月15日 - 新しい対戦機能「トレーナーバトル」をお楽しみいただけるようになりました。 - 近くのトレーナーの「対戦コード」を読み取ることで「トレーナーバトル」ができます。 - 「親友」または「大親友」のフレンドなら、離れた場所からでも「トレーナーバトル」ができます。 - チームリーダー(スパーク、キャンデラ、ブランシェ)とも「トレーナーバトル」ができます。 - 「トレーナーバトル」は3つの「バトルリーグ」に分かれています。それぞれの「バトルリーグ」ごとに、参加できるポケモンの最大CP上限値が異なります。 - 「トレーナーバトル」をプレイすると、トレーナーはリワードを獲得できます。 - トレーナーのスタイルに新しい髪の色と肌の種類が追加されました。
ゲームをする人目線の書き方ですね。ゲームは書きやすいのかな?
終わりに
やはりSlackが群を抜いて面白いですね。面白いリリース文を出しているアプリがあればおしらせください。
*1:すみません、テーマ名うろ覚えです
NETFLIXの最強人事戦略 私的まとめ
- 作者: パティ・マッコード,櫻井祐子
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2018/08/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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2018年に読んだ本でダントツ一番おもしろい本でした。
この本はどんな本か?
Netflixが自社の文化をまとめた「カルチャーデック」という資料をベースとし、Netflixの人事哲学が語られています。
Netflixの人事哲学
コミュニケーション
- 徹底的に正直であること。
- 徹底的に議論を戦わせること。
- コミュニケーションは双方向であること
いつでも間違いを認め、正しい選択ができなければならない。 そのために徹底的に議論を戦わせる必要がある。 Netflixでは「問題がおこったら当事者同士でオープンに話し合う」ことが重要な約束事となっている。 またコミュニケーションは双方向でなければならない。経営陣は会社の戦略や事業運営、業績に関する情報を正しく従業員に伝えなければならない。 また従業員は知りたいことを自ら問わなければ答えを得ることはできない。
誰かがバカなことをしているというのなら、それは情報を与えられていないか、誤った情報を与えられたせいである。 能力が不足しているためではない。 上層部から正しい情報を下ろさなければ、従業員は他の誰かから誤った情報を与えられる可能性が高い。
チーム・組織づくり
優れたチーム作りに本気で取り組むことが、経営陣にとって一番重要な仕事である。 「今のチームが理想でないことが、会社の成長の足かせになっていないか」を常に問い続けなければならない。
ただし、これは「これは従業員を育て、鍛える必要がある」という意味ではない。
- 従業員に能力を超えた仕事、才能と合わない仕事を与える義務はない。
- 長年の貢献に報いるためにポストを用意する義務もない。
- 誰かに遠慮して重要な人事変更を控える義務もない。
会社は家族ではなくスポーツチームである。 だから優れた成績を挙げていないプレイヤーは交代させなければ、チームやファンをがっかりさせてしまう。 会社の将来に必要な人材は社外からも広く探して最善の人材をポストに当てる。
解雇された従業員が会社を相手に訴訟を起こす可能性は、とくに業務上の課題について定期的に話し合いを持っていた場合はゼロに近い。 キャリアマネジメントはあくまで従業員自身の責任である。マネージャーの責務ではない。
従業員にとって最高の特典や催しは立派な福利厚生や働きやすい職場環境ではなく、事業や顧客について理解を深められる機会である。 最高の人材や優秀な専門家が、会社の最も差し迫った問題を議論する様子を間近で見させ、その議論に参加させる。 これ以上の学習機会・成長機会は無い。
採用
- 優れた人材の採用と従業員の解雇は主にマネージャーの責任である。
- すべての職務にまずまずの人材ではなく、最適な人材を採用するように務める。
- どんなに優れた人材でも会社が必要とする職務にスキルがあってないと判断すれば進んで解雇する。
いつでも最高の人材を補充できるとわかっていなければ、安心して解雇することができない。 だからヘッドハンティング会社から人材を引き抜いて、社内に採用機能を構築した。
本当に欲しい人材を獲得するためには、社内の給与水準やルールなどに縛られることなく、現実の市場の需要に対応するしかない。
人事評価
ほとんどの企業の人事施策や制度はどれもお金がムダにかかる上、「インセンティブをもらい、支持されなければ動けない」という人間に関する誤った考えを前提としている。 Netflixでは従業員にトップレベルの給与を支払い、高い業績をあげるようにハッパをかけている。
人事考課は評価を給与・報酬と連動させているから大変な手間をかけて行なっているだけで、なんの成果も生み出していない。 人事考課と給与・報酬を分離し、給与は会社業績だけに連動させれば人事考課を行わず、従業員成長のためのフィードバックのみに注力できる。。
まとめ
効率の良い働き方を目指し、従来の慣習を見つめ直し、不要なルール・取り組みを無くしていった結果の働き方だと感じました。 全てが「その通り」と同意できるものではありませんが、Netflixの事例をきっかけに自社・自分たちのやり方を見直すのは価値があることだと考えます。
上にあげた事項だけでも十分刺激的ですが、下記の内部暴露はさらに刺激的です。
ゆとりを計画しておく-物流業界の"Flying Spares"という考え方
はじめに
Blog: Allow for Uncertainty with Built-In Slack – The Flying Spare Example | Innolutionというブログ記事で、物流業界における「計画されたゆとりで不確実性に備える」例が紹介されていました。とても興味深い内容なので概要を紹介します。
Flying Sparesとは?
空っぽ、または積載量に空きがある飛行機を指した用語だそうです。 別の呼び方として"hot spares"とも呼びます。 ソフトウェア開発でいうと「ホットスタンバイ」のサーバが近い気がします。
他の飛行機の積み残しを搭載する、または故障時の代替として使用することを想定して「常に」用意するだそうです。 航空機を使った物流では下記の「不確実性」が日常的に発生しうるそうです。
- 顧客が持ち込んだ荷物が事前の連絡よりも大きかった
- 航空機機材の故障
- 天候不順
FedEx 1311便
FedEx 1311便は"Flying Spares"用の定期便らしくデンバーからFedExの拠点があるメンフィスまで定期運行しています。 空っぽの航空機を飛ばすにもパイロットや従業員が必要で、さらにこの便はデンバーからメンフィスまで直線距離(2時間15分)で向かうのではなく、ニューメキシコを経由して3時間30分のフライトをします。 1回の飛行にかかる費用は$30k(300万弱)とのことです。
それでもアメリカの南西部の空港で起きた不確実な事態に備えるため今日も飛んでいます。
おわりに
プロジェクト管理やリソース配分を考える際、つい不確実性を過小評価し、有事の際は頑張り・努力で対応して、結果スケジュールを遅らせてしまいがちです。 航空機を使った物流ビジネスほど大掛かりな準備が必要な分野でできている「計画されたゆとり」が、ソフトウェア開発で実現できないはずがないと考えました。
LOVOT体験会に行ってきました: 最高の特典や催しは事業や顧客について理解を深められる機会である。
はじめに
1/11(金)と1/14(月)の2回、GROOVE X社が開発したLOVOTの体験会に行ってきました。金曜日は同じ会社の友人と、月曜日は子供を連れ家族とです。
「体験会の様子をぜひSNSで拡散してください」とお願いがあったのですが、このブログのテーマは「アジャイル開発、組織変革、ファシリテーションについて学んだことの記録」としているので「ちょっと違うかな」と思っていたのですが、最近読んだネットフリックスの組織本にあった文章をふと思い出しました。
ネットフリックスが考える「従業員が仕事に満足感を得る時」はどんな時か
- 作者: パティ・マッコード,櫻井祐子
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2018/08/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (2件) を見る
この本はカルチャーデックと呼ばれるNETFLIXの企業文化や社員の行動規範を定めたガイドをより詳しく説明したものです。
その中で「従業員が仕事に満足感を得る時」について、こんな説明があります。
仕事に対する真のゆるぎない満足感は、優れた同僚たちと真剣に問題解決に取り組む時や、 懸命に生み出した製品・サービスを顧客が気に入ってくれた時にこそ得られる。
従業員が働きたくなるように、給与・福利厚生・ピカピカしたオフィス・ビールサーバーなどいろいろな用意をする企業が多いですが、ネットフリックスはこれを「従業員を子供扱いしている」と一刀両断しています。
最高の特典や催しは事業や顧客について理解を深められる機会である。
ネットフリックスの例では映画事業について学ぶ機会をたくさん設けたそうです。 従業員全員をサンダンス映画祭へ連れて行ったり、著名な映画監督・映写技師・映画編集者の話を聞きにロサンゼルスへしょっちゅういったと紹介されています。
LOVOT体験会の様子
体験会のアンケート項目から推測するに、LOVOTの購入を検討している近い将来のお客様から、LOVOTに興味を持っている少し将来のお客様、ロボットや技術に興味があるエンジニアなど様々な人が訪れているようです。
そういった人と社員が直接コミュニケーションが取れる機会を与えるのはまさに「事業や顧客について理解を深められる機会」だなと思いました。
またLOVOTを構成する技術を集めたコーナーからは「優れた同僚たちと真剣に問題解決に取り組む」ことに真摯に向き合っていることが伝わります。
技術展示会やオープンハウスを年一で開催し、社員が説明に立つことはよくあると思いますが、それとは違った印象を受けました。残念ながら理由は私もうまく言葉にできません。少人数制で説明員の方とたくさんお話しする機会があったからなのか。技術・アイデアの出し惜しみをしてないように感じたからか。これから育てていく、いわばβ版をぶつけてきているからなのか。そもそもGROOVE Xもどう広めていくか悩みを素直にぶつけているように感じたからか‥。
会場にいるLOVOT達にはみなかわいい名前がついています。社員からも愛されていることが自然と伝わります。
金曜日訪問した際、何気ない雑談で「LOVOTがいる家庭の子供達は「LOVOTネイティブ」として大きくなるんですね。どんな考えをロボットに対して持つんだろう。」といったやり取りがありました。それを聞いた社員の方は「そんな製品を自分たちは作っていたんですね!」と話していたことが印象的でした。「事業や顧客について理解が深まった時」に立ち会えた気がします。
「率直に買おうと思う?」
と聞かれると、NOです。
一般家庭で買うには価格が高いですし、LOVOTの振る舞いもまだまだ少なく、飽きてしまうかもと感じました。家の見守りもできるそうですが、人がLOVOTに求めるものとは少し違う気がします。
ただ、そんなことは会社もとっくにわかっていて、それでもいい製品に育てるべく、一歩歩みを進めるために今回の体験会を開いたのだと思います。よその会社の展示会と違うと感じたのはこれが理由かもしれません。
おわりに
残念ながら今回の体験会は1/18(金)までとのことです。 反響を見て秋に開催するかもしれないそうですが、行く機会があればぜひ行ってみてください。
最低なスクラムマスターの言動集
スクラムマスターとして不適切な言動をテンポよくまとめた動画です。
- それはこのスクラムイベントで話すことではない。
- 今日の振り返りでは開発を改善する10のアイデアを話したいんだ
- もっとアウトプット増やしたいからたくさんのことに着手して欲しいんだけど
- 今日のデイリースクラムは過去最短で終わったぞ!
- (スクラムのことを質問しにきた開発者に対して)仕事に戻れ
- 振り返りの始めは5分黙ってまとめを書いてみよう。 おい、そこ!黙ってって言っただろ!
- それはチームの障害じゃないよ
- この機能追加は友人に約束したものだから必要なんだ。
- (今日の午後にデモがあるから急ぎで対応して欲しいんだという依頼に対して) OK、問題なし。
- Continuous Integrationに関する取り組みは誰の助けにもなっていない。
- おい、みんな! 今日のふりかえりはCEOが来たぞ。でもいつ通りやろう!
- スプリント中に終わらなそうだから期間を2週間じゃなくて3週間にしよう。
- (チームに質問) みんな、このストーリーは終わったかな?
- 君のチームのベロシティはうちのチームよりも悪いから残業してカバーした方が良い
(スクラム)チームに人を連れてくる
はじめに
Regional Scrum Gathering Tokyo 2019のOpen Space Technologyで「隣の部署から借りているあの人を3ヶ月でもらう方法」というお題が出て参加してきました。
「ひとさらいしたい!」の文字が印象的ですが、本当にさらったことがある人はどうも少ないようなので、「チームに人を連れてくる」コツをここにまとめておきます。
以下、読む人にわかりやすいようにOSTで話した順番とは必ずしもあっていません。
話したこと
チームに必要な人を連れてくるのはマネージャーの仕事
そもそも論としてマネージャーの仕事は「人・モノ・カネ」の用意であると言われています。 「人さらい」というと物騒ですが、「チームに必要な人を探して連れてくる」のはマネージャーの立派な責務です。与えられたメンバーで最善を出そうとすることがマネージャーの仕事ではありません。
マネージャーという肩書きはなくとも、プロジェクトの責任者であればチームに必要な人を連れてくるのも仕事のうちの一つだと考えを改めた方がよいです。
専任を増やそう
よくあるのが兼任でプロジェクトに追加リソースが充てられるパターンです。30%だけとか、50% とかどこかで聞いたこと、やらされたことはありませんか?
過去のプロジェクトで追加人員をお願いした時に50%の人が2人割り当てられ、合わせて1人月のリソースとなったことがあります。50%の人がスクラムチームに入る問題として「イベントに来ない(来れない)」「イベントに来なくても強く怒れない」がありました。「別プロジェクトの打ち合わせがあるから月曜と水曜のデイリースクラムは欠席します。今週のスプリントレビューと振り返りは出れません。」といった類です。50%だと「どちらのプロジェクトも重要」となるので、このことを叱ることに躊躇してしまいました。
当時の解決策は上位の管理職に「人数が減っても良いので、プロジェクトの参加率が50%よりも多くなるメンバを作ってください」と調整を依頼しました。「50% 」が2人ではなく。「100%」が1人や、「60%」の人と「40%」の人にして欲しいというものです。またスクラムへの参加が50%に満たない人をチームメンバから除外して、プロジェクトに関するチーム外の作業を割り振るようにしました。これは名前だけ載せておくと上の管理職にはたくさんの人が割り当たっているように見えるからです。
結果は50%の2人は100%の2人になって戻ってきました。
居心地のよい場所を作る
別の部署から連れてくる人は席が物理的に離れていることが多いので、チームに座席を作り、協力してもらう時間が長くなるようにするといったものがありました。場所を作るだけでなく、性能の良いPCを用意する、複数のディスプレイを用意する、楽しいチームの雰囲気、おやつなど元の部署より居心地が良いと思わせてついつい協力しすぎちゃう効果を狙いましょう。
正攻法でもらう
「現在のリソースではプロジェクトの進捗に支障が出ます。XXXが原因なので人を追加していただかないとスケジュールが遅延します」と上位の管理職にアラートを送るのが正攻法だと思います。スクラムの原則の一つに「透明性」がありますので、現在の進捗・進捗を阻む障害がなんであるか明確にしてチーム外に発信しましょう。コツは手を変え、品を変え、何度もアラートを上げることです。世の中には「何度も相談に来ないということは、もう解決したんだろう」と判断する上位管理職が少なからずいます。
借りている人員を返す時にこう言ってみてもいいかもしれません。「元のプロジェクトで必要としているのもわかりますが、うちのプロジェクトでも頼りにしている人材です。どちらのプロジェクトの専任とするかの調整はお任せしますが、本人の希望を聞いて、望ましいようにしてあげてください。」自分のプロジェクトになびいていることがわかっていれば、自信を持って言いましょう。メンバーのことを考えているいいリーダーだと思われる副次的な効果も狙えます。
人と予算がセットになっていて連れてこれない
SIer的な問題です。1つのプロジェクトに特定の人が結び付けられてしまうことで炎上するまでどうにも手出しができなくなってしまいます。
いくつかのプロジェクトをまとめ、それに複数の人材を「リソースプール」としてまとめて結び付けすることで、その中での人員融通がやりやすくなるかもしれません。エンジニアリング組織論への招待 ~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリングの中でバッファはタスク単位でなくプロジェクト単位でまとめて管理することで見える化しやすくするといった話がありました。人月管理でも応用できる考え方かもしれません。
新人を連れてこよう
「新卒・新人」はしがらみが少なく、連れてきやすいタイプの人員です。 既存メンバーと比べてアウトプットが少ないのでは・・・と思いがちですが、新人に限らず誰でも参加してしばらくはアウトプットが出しにくいものです。 またチームに入ってからの成長を考えると伸び代が大きく期待できるかもしれません。
副次的な効果として中堅メンバが新人に教えることによりチーム内にコミュニケーションが生まれ、雰囲気がよくなることもあります。
「この仕事はスペシャリストが必要です。だから兼任でないとダメなんです。」
とよく聞く話ですが、本当にそうでしょうか? 専任のチームメンバでは学べないのでしょうか? スペシャリストがトラックに轢かれたらプロジェクト、ひいては会社の存亡の危機です!
まずはプロジェクトに必要な技術を棚卸しして、スキルマップを作ってみましょう。 チームにスペシャリストの仕事を誰か学んで身につけられないか聞いてみると良いでしょう。 その上でスペシャリストでないと担えないものが本当にあったのだとしたら、すぐに採用活動を始めた方が良いと思います。
チームをプロジェクトにあてる
スクラムは自己組織化したチームを作り、継続してプロダクト開発を行うことを良しとしていますが、実際は有期のプロジェクトが立ち上がり、そこに人が割り当てられることが多いです。 チームメンバは同じまま、新しいプロジェクトに割り当てることができれば、リーダーは強いチームを作るものという意識に向けさせられると考えます。
社外から連れてくる
社内から連れてくると揉め事になるため、急成長中の会社では社外から採用して連れてくることを奨励していると聞きました。 転職が活発になってきた昨今ならではの動向だと思います。
攻めと守りを意識しよう
「連れてくる」ことばかり考えていると「連れていかれることもある」ことを忘れてしまうので、チームメンバーを守ることもお忘れなく。
急成長中のAI/ロボット会社の事例として、「社内に面白いプロジェクトが次々立ち上がるため、開発者が移って行ってしまう」というものがありました。今のプロジェクトが重要で意義があることだと折に触れて伝えましょう。
(番外編)Netflixの話
- 作者:パティ・マッコード
- 発売日: 2018/08/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
「社外から連れてくる」「メンバを守る」で思い出して共有したのがNETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築くです。 今のNetflixを形作った文化、採用について書かれているのですが、下記のようなことが書かれています。
- 社員が本当に求めているのは福利厚生ではない。自社のビジネスをより深く勉強し学ぶ機会こそが人を惹きつける。
- Netflixは自社に合わなくなった、必要としなくなった社員を解雇するようにしているが、躊躇なく解雇するのは代わりの人材をいつでも補充できるようにしているから。採用は何より重要な活動で、社外から人材会社の人員をスカウトし、社内にヘッドハンティング組織を構築した。
終わりに
ここまでで30分です。 思い出しながらまとめるのは大変でしたが、濃密で楽しい時間が過ごせました。
Regional Scrum Gathering Tokyo 2019に参加しました
はじめに
初参加です。参加者同士の交流色が強い、活気あるイベントでした。
聞いてきた話と個人的なメモ
Outcome Delivery: delivering what matters
「最高のコーヒー」と聞かれると豆や入れ方、カップや砂糖などコーヒーのことだけを考えてしまうが、「素晴らしいコーヒー体験」を問われると誰と飲むか、どこで飲むかなど人それぞれ違った視点が生まれてきます。 「開発する」ことを考えると短時間でたくさんの成果を作り出すことに頭が向いてしまいますが、その前に「なぜ」それが必要なのかをよく考えてみましょうという話でした。
「なぜ」を繰り返すところはトヨタ自動車の「なぜなぜ5回」に似ていると感じました。リーン由来で何か影響を受けているのかもしれません。
Coaching resilient Scrum teams
プロジェクトに関わるたくさんの人を「作業グループ」から「チーム」に変え、さらにアジャイルに動けるようにするため、コーチとして行なったことを紹介されていました。
コンテキスト別にチームをマッピングし、効果が出やすく全体への影響が大きいところからコーチとしてサポートしていったとのこと。
チームごとに改善の取り組みを可視化するためにマインドマップを作っていたのが面白かったです。「最近は何の改善を検討してたんだっけ」というのは忘れてしまいがちなので俯瞰図を作ってマメに更新するのは良いと思います。
運用中のモバイルゲーム開発チームに、並行バージョン開発を導入してみた
ゲームづくりの難しさ、Apple/Googleのプラットフォームに載っているため配信が自分たちでコントロールできない難しさ、評価の難しさなど色々悩んだ末にどうチームを分割して成果が出るように考えたかというお話でした。背景がわからないとどうしてバージョン別チームを作ったのか腹落ちできませんが、20分枠だとそこの説明に時間を使ってしまって説明が難しそうだなと感じました。
講演後に「2チームで同一バージョンを半分の期間で作ってはどうか」と話をしましたが、「ゲームは組み合わせ評価が難しく、QA期間が短縮できないからそこがボトルネックになってしまう」と聞いて腹落ちしました。でも「評価をもっと短く終える手段はないのか」と考えると次の段階が見えてくるような気がします。
スクラムチームを辞めて20人でカンバン運用してきた半年間の軌跡
20分枠なのにスライド150枚の対策でした。 クロスファンクショナルチームを組んでいたが、評価が難しく、職能別チーム(バックエンド・フロントエンド)に組み直した。そしてチーム同士の連携を強化するためカンバン開発に移行し、カンバンもなんども作り直してようやく良さそうなカンバンにたどり着いたというお話でした。カンバンの改善事例はあまりみないのでその点で面白い発表だったと思います。
一方で本当の問題は「評価をどうするか」であって、クロスファンクショナルチームを止めるほどのことだったのかが気になりました。話を聞けなかったので憶測ですが、真因は「給与が評価と連動しており、エンジニアの納得感を得ることが難しい」のような気がします。最近読んだNetflixの本では「給与と評価を連動させるな」と言っていました。
東名阪をまたいだLeSS Huge(大規模スクラム)においてスクラムマスターとして実践したこと
www.slideshare.net
東京・名古屋・大阪の3拠点でLeSS Hugeをやった取り組み紹介でした。「LeSSみなさんご存知ですよね」といった体で話が進んでいきましたが、本当に認知度あるのでしょうか? 結局いろいろあって、発表時点ではLeSSをやめてしまったようです。一気にHugeを始めてしまったのがよくなかったんじゃないかと思います。
ちゃんとやってるのになんかうまくいかないスクラムからの脱出
スクラムの基本を、スクラムという言葉を使わずに、1歩ずつチームを導く優しいコーチのお話でした。 「スクラムを基本通りやれ」って言ってはダメですかねというお話を後でしましたが、「いきなりたくさんのことはできないから」と返答いただきました。コーチの余力がある場合にはとても良いやり方だと思います。
エンジニア採用もカンバン使ってみたら、「透明性」によって採用が活動が変わったこと / Agile Recruiting
唯一の「開発」でないアジャイル事例だったのではないかと思います。 ほとんどエンジニアしかいない会場ではなく、違う場であればもっと引きがあってもおかしくない事例紹介だと思いました。
スクラムならできる プロダクトバックログの戦略
www.slideshare.net
スクラムコーチが事業会社のIT部門部長として転職し、社内の信頼感を得て、組織を立て直していく泥臭いお話でした。 タイトルももっと泥臭くつけた方が話を聞きにくる人を惹きつけられたんじゃないかと思います。 スクラムをうまく社内に根付かせることができた人にとっては「あるある」話だったと思います。泥臭い経験の共有は貴重です。
Learning to Experiment
モブプログラミングを考案したHunter Industries社のChris Lucian氏の公演でした。 流行しているモブプログラミングですが、突然ひらめいでできたものではなく、さまざまな実験を大小繰り返し、失敗を学びながら生まれたものだとわかりました。 LeSSでも「実験が大事」だと話していて、根っこは一緒なのかなと思います。
心に残る言葉が多いセッションでもありました。
- 失敗するリスクが高い実験こそが学習を最大化する
- 学習する時間を定期的に用意する
- いいプラクティスを広げるには透明性、結果、一貫性が重要
- チームに「最近何を実験しているか」を聞く。
喧嘩できるチームを作るワークショップ
振る舞いは観測できるけど、何を考えているかは見えない。でも考えの元となる価値観・常識・正しいと考えていることは人それぞれ違っていて、それを形作るのは文化・風土・空気である。でも文化や空気も実は個人の経験や学習によって少しずつ作られるもので価値観も変わるので、対話を観察し、フィードバックすることで良い文化、チームの器を作っていこう・・・というワークショップだったと思います。抽象的な話も多く正しく受け止められたのか自身がありません。
「場を取り繕おうとする”安全”」ではなく「そもそも論が言える”安心”」な空気を作ることが大事だとワークを行なったチームで話してこれが一番すっときました。
ワークショップの途中で議論の内容を他の方にみていただく機会があったのですが、やり取りを第3者からみてもらってフィードバックしてもらうのはヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法でも1on1を訓練するやり方として紹介されており、少し似ているなと感じました。
明日現場で使える!とにかく明るいScrum Patterns 活用ワークショップ
とにかく明るかったです。
自分たちが普段使っているプラクティスを解きほぐし、どういう時に使えるものなのか、それが本当にベストなのか、考えるきっかけとするのに面白いワークショップでした。まだできたてのようなので、今後さらに良くなっていくと思います。
よなよなエール流 熱狂を生むチームづくり ~8年連続赤字から13年連続増収増益までの軌跡~
今回聞いてきた中で一番面白いお話でした。
- 競合が少ない道を選び、真似できないほど徹底的に差別化する。これを繰り返し行う。
- チームを育てる。中心となる人の立候補を待ち、チームビルディングをきちんと学ぶ。
- コミュニケーションは意図的にとる場を作る。「大人数⇄少人数」と「質⇄量」の軸でマップを作り、マップの全域がカバーされるように社内イベントを配置する。
本もいただけたので時間を作って読みます。私はヤッホーブルーイングのファンになってしまいました。
- 作者: 井手直行
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2016/04/08
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
素直な感想
自分のチームはかなりうまくアジャイル開発/スクラム開発できている部類だなと感じました。おそらく中の上か、上の下ぐらい。 ただHunter Industriesの事例など上には上があるので日々実験を繰り返してまだまだよくする余地はあるのだなと思いました。
この点が改善されるともっと良いのに
と思った点です。
- 持ち帰り荷物が多い
- 20分の発表枠がきつそう
- 背景の説明で10分ぐらい使わされている例が多かったです。休憩時間を短くして30分枠にしてもよいのでは?
- 質疑応答の時間がない
- 20分枠を20分話すとQ&Aができません。5分ぐらいはQ&Aに時間を割くか、またはフィードバックを貼り付ける紙を壁に用意してもよいのでは?
- 同時通訳聞きにくい
- 会場中に英語のスピーチが鳴り響き、レシーバーから日本語が流れてきます。どっちも大きい音で入ってくるので英語が少しでもわかると体が聞こうとしてしまって辛いです。
- レシーバーをつけないで英語で聞くことにしても隣の人・会場中のレシーバーの音漏れが大きくて結局聞こえてしまうという話も聞きました。同時通訳があるイベントはこういうものなのかもしれませんが、もっといいやり方ないですかね。レシーバーがイヤホンのように音漏れしにくいものに変わるとか。
- ネットワークパーティーのタイミング
- Confengineがスマホで読みづらい。
- ノートPCを会場に持ち込んでいないとスマホで確認することになりますが、レイアウトが詰められて大変読みにくいです。
- スケジュールは急遽変更することが無いようなので、会場の壁に貼ってあっても良いのではと思いました。