tuneの日記

アジャイル開発、組織変革、ファシリテーションについて学んだことの記録

「Netflix日本参入秘話」を聞いてきました

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1時間程度の講演に、1時間のQ&Aと大変濃い面白い時間を過ごせました。

講演者の竹中さんについて

半導体エンジニアとしてキャリアをスタートし、外資コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーに転職。ベインではサンフランシスコと東京にて勤務。その後、PEファンド投資先である小規模な日系機械メーカーの執行役員ソニーの研究開発企画部門の部長、日本の不動産テックの先駆けとなったソニー不動産株式会社の創業・執行役員などを歴任。直近では2015年1月より動画配信の世界的大手であるNetflixの日本参入に際して日本での2人目の社員として参画し、2018年10月までファイナンス・ディレクターとして事業・コンテンツ戦略の立案やバックオフィスのマネジメントを担った。

Netflix日本法人2人目の社員でサービス立ち上げから、Japan CFOの職務である会計、それ以外に採用・バックオフィス・経営企画など何でも担当したそうです。

Netflixについて

NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築くとかぶる話も多かったです。

NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く

NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く

主要事業と歴史

  • 1997年にDVDメーリングビジネスの会社として創業
  • 2007年からオンラインストリーミングのビジネスにピボット
  • 2011年にオリジナル・コンテンツの制作を開始。

近年はオリジナルコンテンツ制作への投資を拡大しており、年間の予算は兆円単位(昨年が1.4兆円とか)。 連続ドラマのロスト・イン・スペースは1話10億円の制作費がかかっている。 フリーキャッシュフローは大幅なマイナスとなっているが、これは赤字体質の企業だということではなく、Amazonのように成長に大きく投資しているため。

グローバルでUI含めて単一のサービスを展開している。 売り上げのほぼ全ては定額課金の会費から。残りのわずかな収入はUSで残っているDVDレンタル事業とのこと。 定額課金の価格帯はグローバルでほぼ同じである。わずかな違いは為替変動程度。

事業戦略

Netflixの事業戦略はIR向け資料で公開されている。

一般的な企業での事業戦略資料は選択肢の幅を広く保つため意図的に「ふわっとした」表現を使っているが、Netflixでは明確に書いてあることが特徴である。

  • PPVをやらない
    • We don't offer pay-per-view or free ad-supported content.
  • 広告をやらない
    • We are about flat-fee unlimited viewing commercial-free.
  • 映画とテレビシリーズを配信するエンターテイメントネットワークである
    • We are not a generic "video" company that streams all types of video such as news, user-generated, sports, porn, music video, gaming, and reality. We are a movie and TV series entertainment network.

上記の戦略を決定した理由の背景は200〜300ほどあり、社内では公開されていて見ることができるらしい。

企業文化

SlideShareで公開されている「Culture Deck」の通り。

www.slideshare.net

他の企業でも規定されている、「こうありたい」という理想が書かれているが、Netflixがユニークなのはこれが実際に運用されていること。

下記のような質問を他企業の方からもらったそうだが、回答は他企業ではなかなかないものばかりとなっている。

  • Q: KPIはなんですか → A: ありません。ユーザのためになることをしていたら売り上げが上がると考えています。
  • Q: 人事考課はどうしていますか → A: 人事考課はありません。
  • Q: ワークライフバランスはどうとっていますか → A: Netflixでは有給休暇の上限ありません
    • 実際取り放題らしいが、日本のジョブオファーでは「最低20日」という記述になっていたらしい。

Freedom and responsibilities

Culture Deckの一つを取り上げて具体的な取り組みの紹介があった。 Netflixでは事業領域を絞り、優秀な社員を採用することに心血を注いでいるが、それは「タレント密度の向上を、事業の複雑性向上よりも早くやる。」という戦略に基づいている。

一般的に事業が成長すると複雑性が増してしまう。例えばメルカリはフリーマケット事業に加え、メルペイという金融事業が最近増えた。両者は異なる事業領域であり、異なる取り組みをする必要がある。さらに社員数が増えると優秀な社員の割合は低下する。 複雑性に立ち向かうのに、優秀な社員の割合があるしきいを下回ってしまうと組織に混乱とエラーが増加する。

そこで多くの企業では下記から選んで対処している。

  1. クリエイティブであるために小さい規模を保つ
  2. プロセスを作らずに頑張る
  3. しっかりとした業務プロセスを構築する *この結果としてプロセスがどんどん肥大化し、優秀な社員が離れていってしまう。

Netflixは新たな選択肢として「4. より優秀な人材を集めてカオスを抑える」としている。 「Long-Term View」で事業領域が明確に規定されているのも、人材採用に注力しているのも全てはこのためである。

明確な事業方針を土台に、企業のカルチャーが規定されている。その上にシンプルな社内ルール・製品があり、優秀な社員がそれぞれの判断で動く。

これらを補強するものとしてデータを重視する分析、頻繁な社員合宿、ディベートカルチャーがある。

データ共有・分析と戦略的活用

グループと責務

Netflix内のメンバは概ね下記の3グループに別れている。

Science & Algorithm ⇄ FP & A ⇄ Content Acquisition

Content Acquisitionはコンテンツ確保に責務を持つ。よそと契約してきたり、コンテンツを独自に制作するのがここ。映画会社出身者が多い。定性的で、未来を予測して考え、個別のコンテンツタイトルごとに考える。

Science & Algorithmはコンピュータ・エンジニアリング・統計の専門家である。定量的で、過去のデータを元に解析し、個別コンテンツを束ねたカテゴリレベルで傾向や対策を分析する。

FP&Aは間に入る調整役。コンサル出身者が多いらしい。

分析手法

Netflixは原理的にサイト上でのすべてのユーザの行動を収集し分析することができる。 例えばユーザ情報、コンテンツ視聴データなどがある。 しかし、実際に使っている指標はすごくシンプルなものを追っている、Netflix流視聴率とか。

仮に分析できても経営と相関の高い指針・施策を導き出すことは難しい。 例えばKonMari ~人生がときめく片づけの魔法~アメリカで社会現象にもなった大ヒット作だが、「この作品ヒットするかな?」とアメリカ人に聞かれて自信を持って答えられる日本人は少ないだろう。 なのでコンテンツ作りはArt半分、Science半分でやっている。

日本参入の舞台裏

  • 採用について
    • 初期の採用では苦労した。LinkedInで連絡しても会ってもらえなかった。
    • 日本オフィスでも英語がほとんど。ペラペラでないと雇えない。
    • 日本で社員を雇うにしても本国で面接をすることになる。日本で面接して本国に候補者を送っても不採用になることが多かった。本国での人気が高く、優秀な人を見る目が超えた結果、日本からの応募者のレベルが相対的に低く見られているかもしれない。
  • 人事考課と評価を切り離して運用している。
    • 関連づけたたまま360度評価を導入すると「褒め合い」に着地してしまう。
    • もっとパフォーマンスをあげるためのアドバイスを送る

Q&A

Q: コンサル・SONYの経験は役にたったか

A: 前職(SONY)の経験はほとんど捨てた、忖度とか。 ネットフリックスのやり方を身につけてからはコンサル自体の仕事の進め方が役立っている。

Q: 部下の育成

A: 自走できる人材を採用し、ネットフリックスのやり方を伝えてあとは放っておく。 Netflixではアメリカに優秀な人材が多く、ロールモデルを社内で見つけやすい。 ロールモデルと何が違うかを考えてもらうきっかけを作るだけのことが多い。

Q: 独自の文化が生まれたきっかけ

A: 2000年代前半のITバブル崩壊時に社員のレイオフを行った。すると会社のスピードが速くなった。 創業者のヘイスティング氏が会社にどんな変化が起きたのかを熟慮した結果、優秀な社員の密度を高めた結果だと結論づけた。 そこから今の経営スタイルが確立した。

Q: 評価のやり方

A: 評価は主観で行なっている。数値化せずともパフォーマンスの悪い社員は皆に認識されている。

360度フィードバックは「あなたがもっとパフォーマンスを上げるために」の観点で行う。 これは能力の高低とは関係なく行うことができる。 自身の経験だと働き方の根本に関わるフィードバックが役に立った。「担当する領域を絞ってほしい」「ハイレベルの判断ばかりでなく、タイトルレベルに入り込んで欲しい」など。

感想

コンテンツ系の人、コンサルの人、エンジニアと多様な人が多様な興味を持って集まった会だったようで、Q&Aはいつまでも終わらずどの質疑も大変面白かったです。