tuneの日記

アジャイル開発、組織変革、マネージメント、ファシリテーションについて学んだことの記録

トヨタの製品開発: トヨタ主査制度の戦略,開発,制覇の記録

はじめに

トヨタ マークⅡ 3代目の開発過程を綴ったドキュメントですが、冒頭に主査制度の説明があり、全編を通じて実例を交えて主査の働きを理解することができる本になっています。 車種ごとに社長よりも強い決定権限を持つ主査を置き、全てに責任を持たせるという制度は非常に興味深いものでした。

開発初期の段階から1人に責任を集め全体に目を光らせることで、初期から売れる製品をプロセスとして作り込むことができているのだと思います。

トヨタ主査制度

目的

一人の主査に担当車種に関する全ての領域を見ることを移譲し、決定権と責任の所在を一元化する。 「担当車種に関しては、主査が社長であり、社長は主査の助っ人である。」

主査は下記の全てを主導し、その結果について全責任を負う。

  • 企画:商品計画、製品企画、販売企画、利益計画など
  • 開発:工業意匠、設計、試作、評価など
  • 生産:生産開始
  • 販売:発売準備、記者発表、店頭発表・販売促進、定期報告

主査制度を実現する組織構造

技術部門の一部署である製品企画室に所属する。製品企画室は室長、副室長、主査10から20人から構成される。

  • 室長 : 専務取締役または常務取締役
  • 副室長 : 取締役
  • 担当主査 : 部長または次長クラス。

室長・副室長は部下の主査の人事権を持つが、個別の車両に関して担当主査に命令することはない。

一人の主査と若干名の主査付から主査グループを構成する。製品開発の初期は少なく、後期になるに従って他部門からの派遣者を受け入れて多くなり、製品発売後には再び少なくなる。 主査は直属の主査付については人事権を持つが、他部門からの派遣者に対しては持たない。

主査室は大部屋制で、主査グループの間には間仕切りがない。 他グループとの情報交換は日常茶飯事に行われる。

主査と主査付の関係性

主査と主査付は同一人格とみなされる。 そのため主査は日頃から自分の考え方を主査付と揃えておかなければならない。 また主査付も先の問題を予測して、主査の考えを事前に把握しておかなければならない。

  • 主査付は主査の意思に沿って発言・行動しなければならない。単独で決断が必要な場面では主査を代行して行う。
  • 主査は主査付の決定が自らの意思に反していても、主査付の発言・行動とその結果に対して責任を負わなければならない。

主査が持つ権限

主査の意思決定は製品開発の全てに関わる。 提案書類・設計図には主査のサインを持って発行される。

主査は直属の主査付以外には人事権も命令権も持たず、「説得・調整する権利」だけを有する。 「本当に主査の主張が正しいのであれば、関連部門のメンバーは理解を示す」という考えに基づいている。

主査は社内外の誰でも「説得する」権利を与えられており、必要であれば社長・副社長・協力会社の誰でも自分から面談・説得する権利を持つ。