tuneの日記

アジャイル開発、組織変革、マネージメント、ファシリテーションについて学んだことの記録

スクラムマスターを育てるコツ

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はじめに

スクラムマスターをどう選んだら良いか、どう育てたら良いか」という悩みを多くの方が持っているようなので自分の経験をまとめておきます。

自分はアジャイルスクラムを学び始めて丸5年が経ちました。 CSM(認定スクラムマスター)資格は持っていません。 初めてスクラムマスターに挑戦するメンバーをサポートした経験が複数回(累計10人以上)があります。

私にとってのスクラムマスターのゴールは「スクラムを始める前よりもよい働き方がチームでできている」ことです。 スクラムのルールをきっちり守ることではありません。

スクラムマスターの選び方

皆から立候補を募り、やる気がある人を信じるのが良いかと思います。 チームのエースや次のリーダー・マネージャー候補を選ぶ事例を聞いたことがありますが、そうなると役割ではなく役職感が出てくるのであまりお勧めしません。

「チームに献身的になれる人(細々としたタスクを普段から自主的にとってくれる)」「メンバーから慕われていて、助けたい・盛り立てたいと思わせる人」が強いて言えば向いているような気がします。 職位・グレード・スキルが高い人が務める必要はありません。どちらかというとそういうメンバーがスクラムマスターになると、メンバーが指示を仰ぐようになったり、自分が隠れてタスクをたくさんこなしてアウトプットを確保しようとするのでスクラムがうまく回らないことの方が多い気がします。

最初にお願いすること

スクラムマスターをお願いする人が決まったら下記の事項を伝えています。

  1. スクラムマスターはスクラムというフレームワークの中の役割であって、役職ではない。
  2. プロジェクトリーダーやチームのリーダーではないし、そういう振る舞いを求めてもいない。
  3. まずはスクラムで定義されたプロセスをきちんと守ることを心がけてほしい。

また、スクラムマスターを任された人のマネージャーには下記のお願いをします。

  • まずは「チームの雰囲気がよくなればヨシ」ぐらいに思っておいてほしい
  • スクラムを一人で回せる(カンファレンス登壇者でもお互いに相談し合っている)」とか「ベロシティをX % 向上させる(見積もりを水増しされるだけ)」ような目標を設定しない

まずは基本に忠実に従い、スクラムのイベントをつつがなく回せることに注力してもらいます。

チームメンバーも含めて初めてスクラムを導入する場合、最初の1回は全てのスプリントイベントに同席し、やり方がおかしいところがあれば適宜直します。 2回目以降はふりかえりだけ毎回呼んでもらうようお願いし、2週間〜1ヶ月ぐらいは同席します。 出席しても基本何も言いませんが、強いて言えば振り返りの改善案として出てくる策が「お気持ち(XXX に気をつける)」だったときだけ具体的な行動に直させます。

最初からスクラムマスター専任でお願いすると何をして良いのか混乱することが多いので、開発メンバーと兼任でお願いすることがほとんどです。

スクラム自体が初めてであればSCRUM BOOT CAMP THE BOOK【増補改訂版】 スクラムチームではじめるアジャイル開発を読んでもらいます。 スクラム自体は経験があるけどスクラムマスターが初めての場合はアジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法~を読んでもらっています。

うまくスクラムが回っていない兆候

2〜4週間(または2〜3スプリント)もたつと、大抵開発のリズムができ、何らかの成果が見え始めるようになります。 振り返りがうまく回っているとチームで改善しようという雰囲気が出てくるのでスクラムを始める前よりも「チーム雰囲気が良くなったのでヨシ」という目標が達成できます。

スクラムに従っているんだけど今ひとつしっくりきていないというときは、下記の兆候が出ていることが多いです。

1. スプリント内に全てのやることが終わらず、それがスプリントの最終日になってわかる

スプリント内で終わらないことはさておき、問題は「終わらないことがスプリントの最終日にわかる」ことです。 このケースはデイリースクラム(朝会)が機能しておらず、互いのやったこと・やることを発して終わっていることが多いです。 開発タスクの残り時間合計の推移や、全体でボトルネックになっていることをデイリースクラムで確認するようになると終わらないことが早期にわかり、プロダクトオーナーやステークホルダーとスプリントのスコープ調整を前もって実施することができます。

スプリント中にバーンダウンチャートを作ることを提案すると解決することが多いです。

2. スプリント内に全てのやることが終わらず、仕掛かりを多く持ち越す

スプリントプランニングが不十分(実装・テスト のような雑なタスクにばらされている)で、バックログの各アイテムに1人を割り当て終わっていることが多いです。 「複数人で取り組んだら少しでも早く終わらせることができないか」という話をチームがしていないことがほとんどに感じています。

一度チームに指摘すると、モブプロを始めたり、手が空いたメンバーが他メンバーの助けに入るなりするようになって解決することが多いです。

3. チームがスクラムマスターの指示を待ってしまう

「手が空いたんですが次に何をしたら良いんですか」とスクラムマスターに質問し、スクラムマスターが指示してしまうケースです。 スプリントプランニングとデイリースクラムの実施が不十分で、どういう順序でタスクを片付けていくのかメンバーが理解できておらず、自分で判断できないことが起因になっているように思っています。

「〇〇さんはどう思いますか?」と相手にボールを投げ返すと自分で考えるようになったり、その結果スプリントプランニングをもっとやろうといったり根本解決につながることが多いです。

スクラムの基本が身についてからの伸ばし方

上記のやりとりを3ヶ月もするとスプリントイベントは一通り回せて、チームの雰囲気も良くなった状態になります。 「自分が手を動かさず、サポートに回った方がチームとしての成果が出るんですよねー」とコメントが出てくるようになります。 またスクラムマスターにチームの状況を聞いてみると「言葉にできないモヤモヤ」や「もっと上手くできるはず」といった感想を聞くことも出てきます。

ここからは個別に壁打ちの機会を設けて伸ばしています。 あとは「最近実験している?」と聞いて、何かしらチームを良くするチャレンジに取り組んでいるかを聞くことが多いです。

相談される悩みの多くは経験・引き出しが少ないケースが多いため、外部の勉強会を教えたり、上級者向けの本をお勧めすることが多いです。 色んな経験を知れて良いなと思った本はスクラム現場ガイド -スクラムを始めてみたけどうまくいかない時に読む本-でした。またアジャイルとかスクラムとか書いてないけど、結局基本を深く理解できるのはトヨタ生産方式をお勧めしています。 他にもいい本はたくさんありますが、本を読むだけで成長することはあまりなく、自分の持ち場・現場の課題に向き合う時間を増やした方が結果的に早く・強く成長するなと感じてます。

トヨタ生産方式

トヨタ生産方式

おわりに

私の場合はこんな感じです。他にも色んな方のノウハウ知りたいです。