tuneの日記

アジャイル開発、組織変革、マネージメント、ファシリテーションについて学んだことの記録

知的コンバットできていますか?

qiita.com

この記事はAdvent Calendar for upcoming Regional Scrum Gathering Tokyo 2022 Advent Calendar 2021 25日目の記事です。自分がRegional Scrum Gathering Tokyoに初めて参加したのが2019年のこと。2020年は会社でスポンサーでき、2021年は同僚が登壇して、2022年は自分が登壇できることになりました。今所属しているRettyアジャイルに・大規模スクラム(LeSS)に取り組む会社としてある程度認知いただけるようになった感触がありますが、年初にRSGTでエネルギーを貰えているのが助けになっている気がします。

知的コンバットによりイノベーションを生み出す

www.youtube.com

※ 注 : RSGT2021での野中先生基調講演動画はRSGT2022開催までの期間限定公開だそうです。

RSGT2021の最終日の基調講演で野中先生から投げかけられた言葉「知的コンバット」。これまで自分が探究していきたいことを「顧客にとって価値のあるプロダクトを、チーム一丸となって協力し、短期間にリリースする開発体制のあり方」と表現していましたが、もっと端的に短く・もっと情熱がこもった言葉を聞くことができ、この1年間自分の頭から離れないキーワードとなりました。

全身全霊で向き合うためには二人、ペアであることが最適です。同時に、双方の目線が上向きや下向きではなく、真っ当に向き合っていることが大事です。それでもそう簡単にはコンセプトは出てきません。「知的コンバット」を何度も繰り返す必要があります。双方が感じた異なる直観を、真剣勝負で何度もぶつけ合いながら、ようやく「こうとしかいえないよね」というコンセプトにつながっていくという感じです。この「共同化」のプロセスがない限り、組織で「知」を生み出す、イノベーションが起こるということはあり得ません。

【野中郁次郎氏対談】第2章 徹底的な対話による「知的コンバット」なくして、イノベーションは生まれないより引用

「プロダクトオーナーが決めたプロダクトバックログの優先順位に従って開発を行う。開発チームは固定期間で区切ったスプリント内でインクリメントを作成し、リリースして得られた学びから次に何をしていくべきかを改めて考える。」こうして不確実なプロダクト開発に挑戦してくのがスクラムですが、真に優れたプロダクトを作る・イノベーションを生み出していくにはもっと真剣に自分たちが取り組む対象に向き合い、議論を戦わせていかなければなりません。

知的コンバットは難しい

「議論が大事だから意見を戦わせよう。職責やロールにこだわらずやっていこう。」と言うのは簡単ですが、実際に起きるのはレベルが低いケンカとトラブルです。 「セールス・企画・開発で納得のいく計画・プロダクトを作りたいのでお互いに意見を伝え合おう」と言うと、率直な意見が攻撃と受け取られ、職責を超えた提言が信頼感の欠如として受け取られてしまいます。「なぜ取り組むのか」「なぜ今なのか」「もっとよい打ち手はないのか」「何を学ぼうとしているのか」、プロダクト開発に真摯に向き合い本質に迫ろうとする問いほど、その山を知らなかったり、登り始めたばかりの当人にとっては致命傷となるマサカリになります。

HRT(Humility, Respect, Trust)を心がけた発言に、ドメインの理解や背景の共有、相手との信頼感を醸成し、人・相手ではなく問題・ゴールに目を向けて話す。ここまで段取りを整えてようやく知的コンバットの入り口に立てそうというのが私の正直な感想です。

RettyのAdventCalendarでプロダクトマネジメント組織で浸透した7つのキーワード(①PMスキル定義・評価制度, ②アウトカム, ③ロードマップ, ④事前検証, ⑤問いを立てる力, ⑥既知と未知, ⑦因果ループ)を野口がまとめてくれていますが、知的コンバットの土台となるこれらを浸透させるだけで1年です。長い道のりです。

note.com

知的コンバットの実現に手応えを感じた出来事

知的コンバットと呼べるような議論の成功を目指し、うまくいったりいかなかったりを繰り返しながらの開発でしたが、「知的コンバットとはこう言う状態なのでは?」と手応えを感じたことがありました。その出来事の直前は1ヶ月弱ほど中規模プロジェクトの開発に取り組んでおり、その振り返りで「実はプロジェクトの序盤からうまくいってないもやもやを抱えていて、良くないと思っていました」という告白を複数人から聞いたことがきっかけです。「その時言っておけばもっと違った今があるかもしれないのに」と静かな怒りを覚えたのをとてもよく覚えています。

その次のスプリントではスプリントプランニングにいつも以上の時間と熱量をかけました。「次のスプリントに何を取り組むべきか」「プロダクトオーナーの優先順位に質問はないか」「開発観点で先に取り組むべきことはないのか」「言うならこのタイミングだぞ、終わってから意見の後出しだめだぞ!」「本当に納得したか?」とかなり口すっぱく確認し、そこからチームの動きや成果が大きく改善された気がします。

本当に足りなかったのは熱量なのかも。

この記事を書きながら思い返してみると、タイミングやプロセス、知識の問題もあったかもしれませんが、それ以上に熱量が足りてなかったのかもしれません。 その後のメンバーとの1on1で気持ちを込めたアドバイスを多く送った気がします。

  • 相手に言っても聞いてくれないじゃない、聞いてもらえるように言うんだ。
  • 聞いてもらえるために「背景を説明する」「費用対効果を説明する」「時には感情を込める」「めげずに何度も言う」など色々試す。
  • 「コミュニケーションが足りない」とはどういうことなのか。真の問題から目を背けているのではないか。
  • あとでふりかえりをしたらダメだったことが良かったことに出来るわけではない。勇気を出していつでも言うべき。

終わりに

「真剣勝負で意見をぶつけながら、こうとしか言えないコンセプトを作り上げる」を達成した瞬間の楽しさは何ものにも代えられません。 「知的コンバット」の実現に必要な土台は準備は簡単ではありませんが、こうした経験が積める場を作れつつあることがマネージャーとしての今年の成果かと思います。

今日の話は「協働でゴールに向かう"チーム環境"」に関する話ですが、RSGT2022では「高速に石橋を叩いて渡る"開発環境"」の話をします。来年もRSGTでエネルギーを補充し、イノベーションを産む原動力を養っていきましょう。